Bee Forest Club生物多様性

生物多様性「新しい森づくり」

Bee Forest Club
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日本は世界第三位の森林率67%と言われるけれど、実際は、その半分が自然林で残りの半分が杉や檜の人工林です。人工林は、少ない樹種を大量に植えて材木として収穫する林業を目的としています。人工林は農地と同様に生物多様性や生態系を作り出すことを目的としていません。
特に耕作放棄地化した多くの人工林は、陽光も射さず暗くて生物の気配すらない、まるで死んだ森のようになっています。
このような状況から多様な生物が蘇る森に戻せないかと模索が、日本中で始まっています。

奈良県のニホンミツバチによる生物多様性評価指標づくり

奈良県水循環・森林・景観環境部 フォレスターアカデミー校長 藤平拓志
NPO法人 ビーフォレスト•クラブ 代表 吉川浩、大井健治、吉川大地

奈良県(水循環・森林・景観環境部)は、2019年から2021年春までの3年間に、新たな森林環境管理における生物多様性指標検討事業を行いました。

その主な目的と概要
近年、社会情勢の変化による林業不振や、所有山林に対する関心の低下などにより、奈良県では管理放棄された人工林や里山林が増加している。その対応として、奈良県森林環境税を活用して強度間伐などを実施してきたが、このような対応だけではなく、根本的な森林管理の仕組みづくりの必要性が増している。
そこで奈良県では、環境と経済を両立させるべく「生産」「防災」「生物多様性」「レクリエーション」の4つの機能を最大限に発揮させる目的で行われているスイスの森林管理を参考に、新たな森林環境管理の構築を目指しているところである。そのためには、目的とする機能を定量的に評価する必要があるが、特に「生物多様性」においては、確立された簡易な指標がない。そこで、社会性昆虫のニホンミツバチのポリネーター(授粉者)の役割に着目し、簡易な生物多様性評価指標を確立する。

NPO法人 ビーフォレスト•クラブの調査活動

奈良県から委託を受けたNPO法人 ビーフォレスト•クラブ(本部:奈良市)は「ニホンミツバチの生息状況とその周辺の植生環境との関係などを調査分析」を行いました。

(01)2019年〜2021年のニホンミツバチの営巣推移

ニホンミツバチの生息状況調査を行うために、2019年から奈良県下にビーフォレスト(ニホンミツバチ繁殖環境)として41ヶ所を設定し、2021年3月までに、それぞれにニホンミツバチが営巣できる共通の巣箱を合計228個設置しました。※設置場所は、ニホンミツバチ養蜂経験者が地域毎に厳密に調べて適度と思われる場所に設置し観察しました。

2019年〜2021年:ニホンミツバチの営巣推移
1)2019年度
①ビーフォレスト=27ヶ所
②巣箱設置合計数=175個
③営巣数=52個
④全体営巣率=29.7%
2)2020年度
①ビーフォレスト=31ヶ所
②巣箱設置合計数=180個
③営巣数=43個
④全体営巣率=23.9%
3)2021年度
①ビーフォレスト=41ヶ所
②巣箱設置合計数=228個
③営巣数=49個
④全体営巣率=21.5%

(02)生物多様性指標の分析

1)調査分析目的
どのような自然環境下においてニホンミツバチ(ポリネーター)の営巣率(生息密度)は高いか?
どのような植生に営巣率は影響を受けるのか?

生物多様生の高い森づくりのために、この問いの答えを探るために、地域の「植生」とビーフォレストの「ニホンミツバチ営巣率」(生息密度)との相関などを調べます。

2)調査対象ビーフォレストとエリア、植生
2019年から2021年度にかけて設置した41ヶ所のビーフォレストとそれぞれに設置した228個の巣箱を対象として調査を行いました。

▷調査対象エリアを半径500m、1000m、2000m
ニホンミツバチの行動半径は、巣箱から約2000mと言われていますが、植生によってその行動は変化する可能性があると考えられるため、巣箱からの半径500m、1000m、2000mの植生調査分析を行いました。
▷植生調査対象
ニホンミツバチは、花の蜜と花粉を食料とします。ニホンミツバチの生息エリアや生息密度は、蜜源植物(広葉樹の被子植物)が多い地域と相関すると考えられます。しかし、他の要因の影響も考えられるため下記の植生エリアを測定しました。そして、⑩ビーフォレストエリア面積内の、全体広葉樹面積(⑨推定全広葉樹面積)を求めるために、それぞれの項目に広葉樹が含まれる【推定広葉割合】を掛けて、その合計を⑨推定全広葉樹面積とした。

3)環境分類と多様性率
環境分類 ※【】内は、広葉樹に換算する場合の割合
①針葉樹・竹率【広葉樹割合=0】
②混合林率【広葉樹割合:1/2】
③広葉樹率【広葉樹割合=1/1】
④果樹園率【広葉樹割合=1/1】
⑤畑率【広葉樹割合=1/2】
⑥ユニオン緑地率
⑦公園率【広葉樹割合=1/2】
⑧住宅緑地率【広葉樹割合=1/5】
⑨針葉樹以外率

「針葉樹以外面積」について:針葉樹・竹以外の環境データである②混合林、③広葉樹、④果樹園、⑤畑、⑦公園、⑧住宅緑地を合わせた「人工的なものも含まれるが多様性が比較的ある緑地」の面積に相当します。環境データが被っている部分の面積は重複してカウントしないようにしています。

⑩多様性率
要するに、巣箱周辺で、針葉樹・竹以外の植物がどれだけ針葉樹・竹を上回って存在しがちであるかを表す。
負の値(ゼロより小さい値)も取り得る。この場合、針葉樹・竹が支配的にそのエリアを覆っていることを意味する。
多様性率=「(針葉樹以外面積 − 針葉樹・竹面積) / 巣箱周辺面積」として計算します。

逆に正の値の場合は、「針葉樹・竹がそのエリアに含まれているかもしれないが、それをその他の植物がどれだけカバーできているか」を表す指標となっている。

※ビーフォレスト巣箱周辺面積は、各巣箱からの半径500m、1000m、2000mの外周をGoogleMAP(QGIS)で測定しました。

4)調査分析方法
●ビーフォレストの営巣率
営巣率=営巣数/巣箱設置数

●植生面積率
径500m、1000m、2000m毎の
植生面積率=①~⑩/巣箱周辺面積

※営巣有無とは、ビーフォレストの巣箱数に関係なく1つでも営巣いた(有)営巣なし(無)をデータとして分析を行った。

(03)結論:p値=多様性率の発見!

半径500, 1000, 2000mエリアのいずれにおいても、
(a) 針葉樹率が増えれば増えるほど営巣率が低くなる傾向がある。
  -> 針葉樹率と営巣率の間に弱い負の相関(およそ-0.36)がある。
  -> p値が0.018~0.022程度で、優位な差がある。

(b) (a)とほぼ同義であるが、針葉樹率が高ければ高いほど営巣無となる傾向がある。
  -> 針葉樹率と営巣有無の間に弱い負の相関(およそ-0.40)がある。
  -> p値が0.006~0.009程度で、優位な差がある。

(c) 多様性率が高いほど、営巣有となる傾向がある。
  -> 多様性率と営巣有無の間に弱い正の相関(およそ0.35)がある。
  -> p値が0.012-0.023程度で、優位な差がある。

p値の使い方

以下、結論(c)を例にとってp値を説明する。
奈良2021巣箱500m営巣率相関.xlsxファイルによると、多様性率と営巣有無との相関係数は
0.3546…でありp値は0.0229…である。

※〈資料11奈良2021巣箱500mユニオン.xlsx〉参照。
※〈資料12奈良2021巣箱500m営巣率相関.xlsx〉参照

これは以下のように解釈できる。
帰無仮説を「多様性率と営巣率に相関はない」、対立仮説を「いやいや、弱いけど正の相関ありますよ」としてt検定をしたところ、p値が0.0229となった。
これにより、帰無仮説が本当に正しいとした場合に今回のような検証結果・計算結果となるような確率は0.0229,つまり2.29%程度であるということが分かった。
ということは、帰無仮説が正しいとは考え難く、多様性率と営巣率に相関がないとは言えないことが統計的に裏付けられた。

※p値の判定方法(参考)
変数間の相関が有意かどうかを判断するには、p値を有意水準と比較します。通常、0.05の有意水準(αまたはアルファとも呼ばれる)が有効に機能します。αが0.05の場合、実際には相関が存在しないにもかかわらず相関が存在すると結論付けるリスクが5%であることを示します。p値は、相関係数が0と有意に異なるかどうかを示します(相関係数が0の場合、線形関係がないことを示します)。

p値 ≤ α: 相関は統計的に有意です
 p値が有意水準以下の場合、相関が0と異なると結論付けることができます。
p値 > α: 相関は統計的に有意ではありません
 p値が有意水準より大きい場合、相関が0と異なると結論付けることはできません。 

| r | = 0.7~1   かなり強い相関がある
| r | = 0.4~0.7  やや相関あり
| r | = 0.2~0.4  弱い相関あり
| r | = 0~0.2   ほとんど相関なし

(04)多様性率が高いほど、営巣有となる傾向がある!

分析結果から見た「ビーフォレスト生物多様生指標」
A:針葉樹率と営巣率との相関
針葉樹率が増えれば増えるほど営巣率が低くなる傾向がある。
または、針葉樹率が高ければ高いほど営巣無となる傾向がある。
 -> 針葉樹率と営巣率の間に弱い負の相関がある。

B:針葉樹率と営巣有無との相関
(a)とほぼ同義であるが、針葉樹率が高ければ高いほど営巣無????となる傾向がある。
 -> 針葉樹率と営巣有無の間に弱い負の相関(およそ-0.40)がある。

C:多様性率と営巣有無との相関
多様性率が高いほど、営巣有となる傾向がある。

生物多様性を目指す新しい森づくり

(05)「ビーフォレスト生物多様生指標」による多様性率の高い森づくり

「ビーフォレスト生物多様生指標」を活用した多様性率の高い森づくりとして、下記の方法が考えられます。

A:針葉樹率と営巣率との相関
B:針葉樹率と営巣有無との相関
・・・針葉樹(人工林や竹林)を自然林に転化する森づくり。
C:多様性率と営巣有無との相関
・・・多様性率を高める森づくり。

針葉樹(人工林や竹林)はそのままでも、相対的に針葉樹以外面積を増やして多様性率を高める。
多様性率=「(針葉樹以外面積 − 針葉樹・竹面積) / 巣箱周辺面積」
また、多様性率においては、自然林等の質の問題が残されています。

(06)調査結果から見える今後の課題

課題1)多様性の質を高める森づくりの工夫
多様性率を高める森づくりにおいては、自然林等の「多様性の質」の問題が残されています。
自然林と言っても生物の多様性は異なります。自然林の質(環境)の相違が存在します。すなわち、実際に昆虫や動物・植物種等の生物が多様であることと、その密度測定などにより、同じ面積の自然林であっても生物多様性の密度を高める工夫(※01)を導入することにより〈多様性率〉を高めることにより「多様性の質を高める森づくり」が可能と考えられます。

※01:今回の調査により、ニホンミツバチの巣箱設置を行うことにより繁殖環境が誕生して営巣したという事実から明らかになりました。他の生物も同様に生息密度を高める工夫を行うことにより生物多様性の森づくりが可能と考えられます。

課題2)営巣無しのビーフォレストへの対応

2019年7月〜2022年3月までの3年弱を通して、一度も営巣が無く1年以上経過したビーフォレストが約40%あります。(ビーフォレスト41ヶ所中、16ヶ所)
なぜ営巣が無いのか? ニホンミツバチがいないのか?生息密度が低いのか?
生物多様性の森づくりを考える上で、ニホンミツバチ(花バチ)の存在が確認出来ない地域が40%も存在することは生物多様性の森づくりを進める上でも問題であり、その原因究明は重要な課題となります。今後もモニタリングを継続する必要があると言えるでしょう。

※〈資料05奈良県3年間のビーフォレストの推移.xlsx〉参照。

◆ニホンミツバチ(花バチ)の存在が確認出来なかった16ヶ所のビーフォレスト
五條市西吉野町宗川野/奈良県十津川村滝川/東吉野大又/吉野町西谷/東吉野村狭戸/奈良県野外活動センター/奈良県十津川村白谷/奈良県大淀町今木/奈良県曽爾村塩井/奈良市藺生町/宇陀市室生田口/宇陀市室生向渕/奈良県奈良市大和田/奈良市月ヶ瀬/奈良市「八幡神社」/奈良県葛城市「當麻寺護念院」

課題3)営巣率の推移について

ニホンミツバチの生息環境が健全で、蜜源がある場合は、一般に営巣率は上昇すると考えられますが、今回の調査(4)で、営巣率は、2019年度から2021年度にかけて減少しています。このことから植生以外にも営巣率が減少する要因があると推測されます。実際、ビーフォレストに営巣していたニホンミツバチ巣箱のミツバチが消滅した事例が多く見られました。
このような原因として考えられるのが、例えば、農薬の影響、ミツバチ感染病などです。
生物多様性にとって植生環境を整えることが重要であることは判明したのですが、営巣率高めるために、減少要因を明らかにすることが今後の重要な課題と考えます。

ビーフォレスト活動への参加者の募集!

「花バチ」をテーマにした実践的な生物多様性回復のための共同研究者の参加を募集しています。
ビーフォレスト活動は、生物多様性回復のためにニホンミツバチや花バチ(ポリネーター)を増やす活動を行なっています。そのための実験や調査、研究など様々な可能性を追求し、政府や自治体、研究機関、学校機関などと協力できればと願っています。

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